納豆(ナットウキナーゼ)の基礎知識
納豆に含まれるナットウキナーゼは倉敷芸術科学大学の須見教授によって1980年(発表は1986年)に発見されました。このナットウキナーゼの発見がきっかけとなり、納豆についての科学的研究が進展しました。納豆にはナットウキナーゼだけでなく、健康に役立つ多くの成分が含まれていることが明らかになっています。
血液が固まる仕組みについて簡単に説明しましょう。血液には血液を固まらせる仕組み(凝固系)と血液を溶かす仕組み(線溶系)が備わっています。この2つの仕組みは微妙なバランスを保っています。
血液凝固は健康にとても大切です。ケガをしても自然に血が止まるのは凝固の作用です。凝固系は止血だけでなく、血管内皮細胞保護や血管修復など血管を正常に保つ機能も持っています。血液が固まる仕組みは非常に複雑で、多数の凝固因子が次から次へと連鎖反応を起こし、最終的にフィブリンという物質を作り出します。この一連の反応は滝の水が段をなして落ちていく様子に似ているので、血液凝固カスケードと呼ばれます。
生体では血液を凝固させる仕組みとともに、凝固した血液を溶かす仕組みが作用しています。体の中ではプラスミンという物質が作られ、血液が凝固しないよう監視しています。この仕組みを線溶系といいます。
「血液サラサラがいい」というブームの中で、凝固系を悪玉のように考えている方がいますが、それは少し誤解があります。凝固系が悪いのではなく、凝固系と線溶系の健康的なバランスが取れていることが大切です。もし、納豆が線溶系だけに作用するのなら、止血能の低下など不健康な状態が現れるはずですが、実際にそのようなことはありません。その秘密は納豆にビタミンK2が含まれているからでしょう。通常は線溶系優位でも、「いざ、凝固系の出番」というときには、凝固系もしっかり作用するようにできています。納豆に薬のような副作用がないのは、必要なときにはいつでも凝固系が機能するようにビタミンK2が待機しているという自然のバランスがあるからです。
血液をサラサラにする薬は、凝固系に作用する薬と線溶系に作用する薬に大別できます。凝固系に作用する薬の代表はワーファリンです。凝固因子はたんぱく質やミネラルやリン脂質などを原料に作られます。大体は体の中にありふれた物質ですが、凝固因子が作られるためにはビタミンK2が必要です。ビタミンK2の供給をストップすれば凝固系は機能しなくなります。ワーファリンは凝固系という生体本来の機能をストップさせる薬なので、副作用も少なくありません。
少量のアスピリンが血栓の予防に役立つことが知られていますが、アスピリンの血栓予防効果は凝固系ではなく、血小板凝集抑制機能によるものです。血栓には静脈で形成される赤い血栓と、動脈で形成される白い血栓があります。白い血栓は血小板が凝集してできています。アスピリンには血小板の凝集を抑制する作用があるのです。なお、アスピリンの少量投与は必ず医師の下で行う必要があります。適量でないと効果がないだけでなく、逆効果となることもあります。血液をサラサラにする食品について高い関心が寄せられていますが、そのほとんどは凝固系に作用するのではなく、血小板の凝集抑制作用を持つものと考えられています。凝固系は、生命維持に不可欠な機能ですので、食品によって簡単に影響を受けないようにできている、ともいえます。
生体ではいつも小さな血栓が形成されていますが、血管を詰まらせるような血栓になることは希です。それは線溶系によってプラスミンが生成されているからです。プラスミンは血栓が大きくならないうちに溶かしてしまいます。プラスミンはウロキナーゼによって作られます。ウロキナーゼは薬品としても使われています。余分なウロキナーゼは尿の中に排出されます。微量な尿中のウロキナーゼを精製するには高いコストがかかりますが効果はあります。ナットウキナーゼなど納豆に含まれる酵素は、ウロキナーゼと同様の効果を持つと考えられます。
納豆の血栓溶解力に関する研究は、以下の6つに分類できます。
1-a. 納豆を使い、人工血栓の溶解を確かめる試験
1-b. 納豆抽出物を使い、人工血栓の溶解を確かめる試験
2-a. 納豆を使い、生体でのフィブリン分解を確かめる試験
2-b. 納豆抽出物を使い、生体でのフィブリン分解を確かめる試験
3-a. 納豆を使い、生体内の血栓消失を確かめる試験
3-b. 納豆抽出物を使い、生体内の血栓消失を確かめる試験
1-a,bは実験室での試験です。市販の納豆について活性を調べてみると、かなりのばらつきがあるようです。平均的には40FU/g程度と考えられています。抽出乾燥粉末ではグラムあたりの活性が数百倍高くなります。 ナットウキナーゼ活性の高さは、発酵条件や菌種などが関係します。その詳細は各社の秘密です。一般的にいえば、発酵が深く粘りけの強い納豆ほど、ナットウキナーゼはたくさん含まれています。
一定温度以上(70度以上)の熱によって活性は減殺されます。このほか、物理的、化学的条件とナットウキナーゼの活性の間には興味深いことがあるのですが、製法上の秘密に関係しますのですべては解明できません。 試験管の中でどのような実験結果が出ようと、それは必ずしも生体で有効であることを意味しません。実際に動物や人で効果があることを確かめる必要がありますが、納豆の効果を確かめる臨床試験は多いとはいえません。
3-a. 納豆を使い生体内の血栓消失を確かめた臨床試験としては、網膜中心静脈閉塞症に対する治療効果の報告があります。(Keiko Nishimura et.al, Clinical evaluation
of natto diet in centralretinal vein occlusion, Basic and Clinical Aspects of
Japanese Traditional Food Natto vol.1,1994.)。この事例では一日の納豆摂取量は市販納豆100グラムです。そのナットウキナーゼ力価はおそらく4000 FU程度であったものと考えられます。
そこで注目すべきは、須見教授の犬を使った血栓溶解実験です。この実験では10頭の犬が用いられ、対照群が設定されています。この試験で、納豆抽出粉末を投与した犬の血栓は消失しました。この実験では、生の納豆ではなく納豆抽出粉末が使用されています。
●摂取して効果のあるナットウキナーゼの量と質
ナットウキナーゼが健康にいいことは広く知られています。ナットウキナーゼの人気も高まっています。サプリとして摂取するのであれば、少なくとも生の納豆と同じ効果が得られるものでなくてはなりません。そのために、1日の摂取量は2000FUが目安となります。2000FUは納豆50gに相当すると言われていますが、製法の違いなどもあって正確な比較は出来ません。
納豆に含まれているナットウキナーゼは、ムチン(ネバネバ物質)で覆われています。そのため、強酸の胃酸の中をすり抜けることができます。サプリでも、生の納豆と同じようにムチンで覆われ酸に耐えるナットウキナーゼであることが必要です。
●ビタミンK2を含んでいること
納豆には血液をサラサラにするナットウキナーゼと、止血の働きを助けるビタミンK2の両方がバランスよく含まれています。両者がバランスよく含まれているために、出血が止まらなくなる等の副作用はありません。ナットウキナーゼサプリも自然食品の納豆と同じ成分構成であることが安心です。
●納豆の有用成分を丸ごと含んでいること
生の納豆にはナットウキナーゼやビタミンK2だけでなく、そのほかにも健康に役立つ成分が多く含まれています。生の納豆は多くの成分の相乗効果で健康に役立っています。納豆菌や各種酵素・ビタミンなど納豆の有用成分をできるだけ多く取り込んだサプリが優れていることは間違いありません。
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Q1 かすかに残っている納豆のにおいが気になりますが、消せませんか?
A1 納豆のにおいの成分は一つではありません。その中で最も強力なのはアンモニアです。アンモニアは不必要な成分なので除去しますが、ピラジンなど納豆独特のにおいを作っている成分はそれぞれ捨てがたい働きを持っています。カプセルに封入することによりにおいはかなり弱くなっていますので、あまり気にならずに摂ることが出来ると思います。
Q2 ナットウキナーゼは動脈硬化の予防にも役立ちますか?
A2 ナットウキナーゼそのものは、おそらく動脈硬化の予防に役立ちません。しかし、納豆は動脈硬化の予防に役立つ可能性があります。納豆に含まれるビタミンK2は血管の再生修復に関係しています。まだ実証されているわけではありませんが、ナットウキナーゼとビタミンK2のコンビは、血管を若返らせる働きがあるかもしれません。さらに、納豆には葉酸が含まれています。葉酸には動脈硬化を予防する効果が期待されています。納豆に動脈硬化を予防する効果があるとすると、それはナットウキナーゼのためではなくビタミンK2や葉酸の効果である可能性が高いといえましょう。
Q3 ナットウキナーゼが血圧を低下させるのはなぜですか?
A3 納豆の血圧降下作用については丸山ほか(1998)、花形ほか(1994)、林ほか(1977)らの報告があります。とくに花形は納豆の血圧降下作用はニコチアナミンによる可能性が高いことを示唆しています。つまり、ナットウキナーゼが血圧を低下させるわけではありません。なお、ナットウキナーゼサプリにはニコチアナミンが含まれているもありますので、選択の際に確認しましょう。
Q4 エコノミークラス症候群 (ロングフライト症候群)を予防するにはどうしたらいいですか?
A4 長時間体を動かせない状態では、血栓ができやすくなります。長時間体を動かせない状態が続くと、静脈、特に足の静脈の血流が悪くなり血栓が生じます。エコノミークラス症候群 (ロングフライト症候群)は、このようにしてできた血栓が原因です。 最近では地震や台風による車中避難生活で発症するケースも目立っています。
エコノミークラス症候群 (ロングフライト症候群)には、いくつかの予防法があります。
1.体を動かすこと。遠慮せずに通路に出て屈伸運動をしたり、座席でも足を動かすよう心がけます。
2.水分の補給。機内(や空調を入れた車の中)は意外と乾燥していますので、こまめに水分を補給する必要があります。水分を補給すればトイレも近くなり運動にもなります。
3.圧迫ストッキング。これはかなりの優れもので、立ち仕事が多い方の足のむくみにも効果があります。
4.アスピリン。静脈血栓に効果があるかどうかは多少疑問もありますが、予防薬としては有力です。ただし、適量がむつかしいので必ず医師の処方を受ける必要があります。
5.ナットウキナーゼサプリ。確実な効果を期待するなら、信頼できる品質の製品を選びます。
Q5 納豆には副作用はありませんか
A5 自然食品や漢方薬には副作用がないと考える方がいます。しかし、それは正確ではありません。自然食品や漢方薬には、薬効成分が含まれていない物もあります。含まれていても生体活性を持たない物があります。この場合、効果がないから副作用もないのです。これらは論外として、自然食品や漢方薬に副作用がないと考えられやすいのは、食品のイメージと重ねて考えるからでしょう。米も小麦も砂糖も牛乳も長年人間が摂取してきた食品です。だから安心と考えるわけです。でも、この考えは少し危ない考えです。食品にはさまざまな栄養素が含まれます。ですから、一つ一つの物質については微量となります。微量なら安全でも多量に摂ると危険な物もあります。お茶を少々たくさん飲んでも危険なことはありません。だからお茶の成分は全て安全かというとそうではありません。お茶からカフェインだけを抽出するとします。するとお茶10リットル分のカフェインでも手軽に摂取できますが、これは危険です。食品から抽出したから副作用がない、とはいえないわけです。
健康食品ブームの中で、既存の食品の中のある物質だけを抽出することが広く行われるようになりました。その中には安全な物もあるでしょうが、危険な物が含まれているかも知れません。自然食品だから安全とは必ずしもいえないのです。食品の中からある特定の物質だけを抽出するのは、食品というより薬剤です。どんな薬剤にも副作用があります。
納豆そのものには副作用がないことに注目し、食品の自然の性質を丸ごと活かす製法の製品であれば安全性が高いでしょう。但し、適量を守ることが大切です。
Q6 納豆と薬の飲み合わせはありますか
A6 凝固系と線溶系に作用する薬を服用中は、納豆を食べてはいけません。
納豆に含まれるビタミンK2はワーファリンなどの抗凝固剤と拮抗作用があり、ワーファリンの効き目を弱めます。納豆菌が健康食品として販売されていますが、これも避けるようにします。納豆菌が腸内でビタミンK2を作り出すという報告があります。
ワーファリン服用中の方は、納豆および関連製品は禁忌です。ワーファリン服用中も安心して摂取できるナットウキナーゼがあるという情報があります。しかし、そのことを裏付ける公刊された論文はありません。たとえそれが安全であったとしても、ワーファリン服用中はすでに線溶系優位になっていますので、さらにナットウキナーゼを摂取する必要はないでしょう(相加作用)。ワーファリンの作用を阻害しないから安全とはいえません。
線溶系に作用するウロキナーゼなどの薬剤服用中も、基本的には納豆を食べないようにします。薬剤は治療効果が見込める量が投与されますので、さらにナットウキナーゼを摂取する必要はありません(相加作用)。詳しくは医師に相談してください。
凝固系、線溶系に作用する薬剤以外では、問題はないでしょう。アスピリンを服用中の方が納豆を食べて問題があったという報告はありません。しかし、血小板凝集抑制のためにアスピリンを服用しているなら、医師に相談してください。
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